もう30年近く前に出版された『トトロの住む家』は、宮崎駿さんが東京の自分の仕事場の近くにある気になっていた何軒かの家を訪ねたエッセイです。レトロな写真と気取らない語り口の文章とおなじみの雰囲気のイラスト満載のもっているだけで楽しい本です。
宮崎駿さんは、「闇」や不思議のある家がいいと言います。怖いおじいさんの書斎へとずーっと続く廊下、薄暗い部屋の不気味な置物、くみとり便所の裏手、そんなものが「子どもに何かを残す」「想像力に影響をあたえ」てきたと言うのです。隅々まで照明の行き届いた明るく、便利で、快適になっていく「だけ」の住宅でいいのだろうか、と問いかけています。
少し話しはちがうのかもしれませんが、わたしたちの日々の仕事でも、限られた面積のなか、知らず知らずのうちに暗がりの長い廊下など「闇につながる?」空間を少なくし、部屋や収納に取り込もうと考えていくことが多くあります。もちろんそれがまちがっているということではありませんが、あいまいに見える空間が暮らしにあたえる彩りや心の動きに思いをいたすような設計が大事だと感じています。当たり前のことのようですが、いつもどこかに置きながら仕事をしていこうと思います。
PS もうひとつ面白いのは、やはりジブリの映画でもずっと描かれてきた緑のはなしです。この本にでてくる家はどれもあまり手をいれていない自然の力にまかせた魅力的な庭をもっています。そんな空間をもてないひとつひとつの庶民住宅、それなら何件かの家がぶらさがっている袋小路のアスファルトをはぎとり、みんなの庭にしてしまおうという感じの提案をしています。このスケッチはさすがだなーと思います。
京都の露地には自然にまかせた庭ではありませんが、みんなの共有空間といえるような風情のところがまだまだたくさんありますね・・・よそ者には立ち入りにくい雰囲気をもった、すこし「闇」を感じるすてきな露地が。 (ki)
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