坂倉準三設計によるいくつかの建物が現存する伊賀上野を訪れた。この町が大学時代の同窓生の出身地であり、また現在の居住地でもあったことから同窓会開催地となったのだ。
彼の尽力もあって、今はその一部が解体されてしまった旧上野市庁舎を、現在閉館中のため普段は入ることができない内部も含め見学することができた。しかも日曜日にもかかわらず伊賀上野市文化財保護課の課長さんの案内つきである。
ご存知の方も多いと思うが、ここ数年、伊賀上野ではこの市庁舎の存続か解体かをめぐって市民を二分する論争・政争が続き、前市長時代に本庁舎を除く二つの棟が解体され、その後、存続を主張する現市長が選挙で当選し、残された本庁舎を保存活用する方向で議論が進められているところなのだ。
1960年の竣工で、現在ほどお金をかけられない時代を反映し、仕上材は決して高級とは言えないが、市民サービスを主とする1階スペースの開放的な空間、議会棟を中心に二つの中庭をめぐる廊下とその周りに配される市幹部の執務室や会議室で構成される2階の明るくモダンな空間。コルビュジエに学びながら伊賀上野にふさわしい市庁舎をめざした坂倉の意図が明確に感じられる建物である。
2階の廊下に3棟からなる在りし日の市庁舎の全体模型が展示されていたが、それを見るものは誰も、この三つの棟が絶妙に配置されることによって生み出された空間こそ坂倉がつくり出したかったものなのだということが理解できるはずである。いまさらながら、二つの建物が失われてしまったことが悔やまれる(吉)。
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